エルゴチオネインとはどんな成分?抗酸化作用の重要性や研究情報も紹介!
体の酸化を防ぐと健康に良いと聞いたのですが、本当ですか?
ユーグレナ 鈴木
本当です。抗酸化作用が強い成分として、エルゴチオネインが注目されています。
抗酸化作用といえば、ビタミンCやビタミンEだと思っていました。エルゴチオネインについて、さらに詳しく知りたいです!
ユーグレナ 鈴木
それでは、エルゴチオネインの概要や期待できる効果について解説します。
エルゴチオネインとは
強い抗酸化作用を持つことで注目されているエルゴチオネインは、健康維持のために積極的に摂取したい成分です。
エルゴチオネインの概要について、詳しく解説します。
20世紀初頭に発見された機能性成分
エルゴチオネインは、1909年にライ麦の麦角菌から発見されました。
老化を防ぐ抗酸化作用が強く、脳に直接はたらきかけるという他の機能性成分にはない特徴も注目されています。
エルゴチオネインが軽度な認知障害者の認知機能改善に関与することもわかっており、認知症を予防する効果が期待されています。
キノコなどの菌類しか合成できない
エルゴチオネインは、キノコなどの菌類と一部の細菌のみしか合成できないといわれています。
そのため、食べ物やサプリメントからの摂取が必要です。
摂取したエルゴチオネインは、脳、肝臓、腎臓、赤血球や皮膚などに蓄積し、抗酸化作用が機能すると考えられています。
エルゴチオネインは、タモギタケ、シイタケやヒラタケなどのキノコ類に多く含まれています。
「長寿ビタミン」の候補
ブルース・エイムズ博士は、健康維持に不可欠で食事から摂取しなければならない成分を長寿ビタミン(longevity
vitamin)として、ビタミンの新しいグループとして位置付けることを提案しています。
また、同氏はエルゴチオネインを長寿ビタミン候補として挙げています。
寿命が長くなった現代では、健康長寿と長寿ビタミンの重要性は益々増していくと思われます。
エルゴチオネインが健康寿命を延ばすことに重要な役割を果たすことは、臨床研究からも示唆されています。
例えば、老化によっておこる脳機能や身体機能の低下の度合いが高い方と低い方の体内エルゴチオネイン濃度を比較した臨床研究があります。
研究の結果、脳機能と身体機能の低下の度合いが高い方ほどエルゴチオネイン濃度が低くなっていることがわかっています。
この結果は、エルゴチオネインが老化抑制作用を有していることを示唆しています。
エルゴチオネインの抗酸化作用はグルタチオンより強力
人間の体内には重要な抗酸化物質であるグルタチオンが存在します。
エルゴチオネインの抗酸化作用は、グルタチオンよりもおよそ3〜30倍強力だといわれています。
体内に滞在できる時間が短い抗酸化物質もありますが、エルゴチオネインは長く滞在できることが知られています。
さらに、副作用や毒性が確認されておらず、安全性が高い点も特徴です。
タモギタケから抽出できるようになった
キノコ類の中でも圧倒的にエルゴチオネインの含有量が多いタモギタケは、収穫期間が非常に短く、自生のものがこれまで市場に出回ることはありませんでした。
そこでタモギタケを手軽に入手できるようにと、生産会社と「現・地方独立行政法人 北海道立総合研究機構林産試験場」が協力して人工栽培に挑戦しました。
タモギタケの人工栽培技術が確立するまでには、1985年から10年かかったそうです。
また、エルゴチオネインの製法としては天然物からの抽出法、化学合成法が知られていましたが、サプリメントや化粧品などに利用するための十分な量と、価格のものは存在していませんでした。
そこからさらに年月が経ち、2018年には北海道大学と筑波大学が世界で初めて大腸菌を用いたエルゴチオネイン(30mg/L)の発酵生産に成功し、「J.
Agric. Food Chem.誌」に掲載されました。
現在では研究開始時の生産菌と比較し、エルゴチオネインの生産性が約1,000倍以上まで高まっています。
機能性成分のうち、水溶性成分は煮出して有効成分を抽出する「熱水抽出処理」を行い、脂溶性成分は特別な抽出方法を用いて抽出ができるようになりました。
エルゴチオネインの抗酸化作用は非常に強力なんですね。タモギタケというキノコは知りませんでした。
ユーグレナ 鈴木
タモギタケは流通量が少なく、あまり知られていませんでした。人工栽培の成功により、以前より入手しやすくなっているので、ぜひ食べてみてください。
人間の体内にエルゴチオネインを運ぶトランスポーターがある
近年エルゴチオネインが注目されるようになった理由は、2005年に人間からエルゴチオネインを細胞内に取り込むエルゴチオネイントランスポーターが発見されたからです。
エルゴチオネインはキノコなどの菌類や一部の細菌しか生産できませんが、哺乳類や植物、魚類などの生命体がトランスポーターによりエルゴチオネインを利用していることが判明しました。
人間の体内でもトランスポーターが発現し、細胞内でエルゴチオネインを高濃度に蓄えることで細胞の酸化ストレスを軽減しています。
そして、エルゴチオネインを吸収する役割を持つトランスポーターは、「OCTN1」と呼ばれます。
研究で「OCTN1」がないマウスを調べると、体内にエルゴチオネインが取り込まれていないことがわかりました。
一方で、「OCTN1」を持つ野生型のマウスは、トランスポーターによりエルゴチオネインを取り込んでいることが確認されました。
研究結果から、トランスポーターがなければエルゴチオネインを体内に取り込めないことが分かります。
人間がエルゴチオネインを体内に取り込めば、高濃度に蓄えられるんですね!
ユーグレナ 鈴木
驚きの発見ですよね。トランスポーターによって、エルゴチオネインの効果が発揮されやすくなっています。
エルゴチオネインに期待できる効果
エルゴチオネインには、脳や体の健康に役立つ効能が期待できます。
以下の3つの効能について詳しく解説します。
①脳機能を維持する効果
②睡眠の質を改善する効果
③美肌効果
①脳機能を維持する効果
エルゴチオネインには、脳機能を維持し、アルツハイマー型認知症の予防やうつ病の症状を改善する効果などが期待できます。
アルツハイマー型認知症の原因の一つは、βアミロイドやタウ蛋白という沈着物により、脳神経が障害されることです。
マウスを対象にした実験で、エルゴチオネインがβアミロイドの蓄積を抑制することがわかったため、アルツハイマー型認知症への効果が期待されています。
また、エルゴチオネインは脳の病気であるうつ病の改善にも効果があるといわれています。
以下の図は、通常のエサ、エルゴチオネインを1%含むエサ、10%含むエサを与えたマウスに尾懸垂試験を行い、動かない時間を調べたものです。※動かない時間を抑うつ状態と判断する。
出典:Nakamichi et al., Food-derived hydrophilic antioxidant ergothioneine is
Behav.2016 Apr 22;6(6):e00477.
図を見ると、エルゴチオネインを摂取したマウスの動かない時間が短いことがわかります。
②睡眠の質を改善する効果
エルゴチオネインには、睡眠の質を改善する効果も期待できます。
ヒトを対象にした研究において、毎日20mgのエルゴチオネインを摂取すると、睡眠障害が大幅に改善しました。
また、エルゴチオネインの摂取のタイミングに関わらず効果が表れることもわかりました。
よって、摂取のタイミングを問わずエルゴチオネインを積極的に、継続して取り入れることが睡眠の質改善につながるといえるでしょう。
③美肌効果
エルゴチオネインには、美肌効果や睡眠の質を改善する効果も期待できます。
エルゴチオネインには、エラスターゼ活性阻害作用やチロシナーゼ活性阻害作用があるといわれています。
エラスターゼとは、肌の弾力を維持するエラスチンというタンパク質を分解する酵素、チロシナーゼは、皮膚のメラニン生成を促進する酵素です。
メラニンが過剰に生成されると表皮の色素沈着が起こり、シミやくすみの原因となります。
エルゴチオネインはエラスターゼやチロシナーゼの活性を阻害し、ハリのある美肌に導いてくれるのです。
その他にも、エルゴチオネインにはさまざまな健康効果が期待できます。
以下の記事でさらに詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
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エルゴチオネインには多くの健康効果があるのですね!ところで、なぜ体の酸化を防ぐことが大切なんですか?
ユーグレナ 鈴木
良い質問ですね。それでは、体の酸化を防ぐべき理由を解説します。
エルゴチオネインで体の酸化を防ぐべき理由
私たちは、呼吸をして酸素を体内に取り込まなければ生きていけません。
一方で、その過程で非常に活性が高い酸素種『活性酸素種』を生み出してしまいます。
活性酸素種は免疫機能の一部としてもはたらきますが、過剰に発生してしまった場合は体にとって有害です。
例えば、老化の促進や細胞のガン化、肥満・糖尿病などの生活習慣病の誘発など、様々な悪影響を及ぼすことが知られています。
そのため、抗酸化作用のある成分を摂取し、体の酸化を防ぐ必要があるのです。
一度増加してしまった活性酸素種は、抗酸化物質のビタミンE(トコフェロール)やポリフェノール、カロテノイドを含む食べ物などを体内に取り込むことで消去されます。
これらの主要な抗酸化物質よりも、エルゴチオネインは非常に抗酸化作用が強い成分です。
体の酸化を防ぎ健康を維持するためにも、抗酸化作用が強いエルゴチオネインを摂取しましょう。
体の酸化はさまざまな病気の原因になるんですね…気をつけます!
ユーグレナ 鈴木
そうなんです。エルゴチオネインの抗酸化作用は、健康に大きく役立つと期待されています。
エルゴチオネインを含む食べ物6選
エルゴチオネインが含まれている食べ物は、下記の通りです。
①タモギタケ
②ヒラタケ
③エリンギ
④エノキタケ
⑤シイタケ
⑥甘酒
以下のグラフは、①〜⑤のキノコのエルゴチオネイン含有量を比較したものです。
出典: 天然抗酸化物質「エルゴチオネイン」の量産化と用途発展の可能性「今月の農業1月号2009.39-43」(山形大学農学部貫名学教授)
グラフを見ると、タモギタケのエルゴチオネイン含有量が圧倒的に多いことがわかります。
そのほかにも、タモギタケにはビタミン・パントテン酸・ビオチン・葉酸も比較的多く含まれているため、豊富な栄養素を摂取したい方におすすめです。
また、エルゴチオネインは熱に強いため、スープや炒め物など、どのような調理方法でも失われないメリットがあります。
エルゴチオネインを含むキノコ類や甘酒を、ぜひ食事に取り入れてみてはいかがでしょうか。
エルゴチオネインを含む食べ物について、以下の記事でも詳しくご紹介しているので、ぜひご覧ください。
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タモギタケのエルゴチオネイン含有量に驚きました!
ユーグレナ 鈴木
ほかのキノコ類と比べると圧倒的ですよね。まずは身近で手に入りやすいものを食生活に取り入れてみてください。
エルゴチオネインは熱に強く、体内に取り込みやすい
エルゴチオネインは熱や酸に強く、水に溶けやすい点が特徴があります。
抗酸化物質のなかには加熱するとはたらきが失われてしまうものもありますが、エルゴチオネインはその心配がありません。
そのため、さまざまな調理方法でエルゴチオネインを含む食品を摂取できるため、扱いやすいメリットがあります。
ただし、茹でて調理する際は栄養素が溶け出してしまうため、調理の際はスープにして飲むことがおすすめです。
エルゴチオネインは体内に長時間蓄えておけるため、毎日少しずつでも食事に取り入れることで健康への効果が期待できます。
エルゴチオネインは加熱しても抗酸化作用が失われないのですね。キノコなどをいろんな調理方法で食べられるのは嬉しいです!
ユーグレナ 鈴木
そうですね。同じ食品でも調理方法が違えば飽きにくいでしょう。
エルゴチオネインはこんな人におすすめ!
エルゴチオネインは、下記のような方におすすめです。
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シミやそばかすがなく若々しい美肌を手に入れたい
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癌や動脈硬化症等の生活習慣病の予防をしたい
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うつ病や認知症、アルツハイマー病を予防したい
エルゴチオネインには高い抗酸化作用があり、しわ・たるみ・シミの原因となる酵素の活性を阻害する効能があります。
しわ・たるみ・シミの予防をして若々しくハリのある肌を手に入れたい方におすすめといえます。
また、活性酸素によるDNAの損傷や過酸化脂質の生成を防ぐ効果・効能も認められています。
癌や動脈硬化症等の原因を取り除くことに繋がるため、生活習慣病の予防としても生活に取り入れることが望ましいといえます。
さらに、エルゴチオネインは、脳神経細胞のつながりを強化し、脳の活性化に役立つことも確認されていますので、認知症やアルツハイマー病を予防したい方にもおすすめです。
脳や体の健康だけでなく、肌の調子も整えたいです!
ユーグレナ 鈴木
それならエルゴチオネインがぴったりですね。ぜひ食品やサプリメントから摂取してみてください。
エルゴチオネインの十分な普及による健康社会の実現を掲げるユーグレナ社の取り組み
ユーグレナ社では、光合成微生物の「ミドリムシ(学名:ユーグレナ)」におけるエルゴチオネイン代謝の研究や、その知見を活かした商品開発を幅広く進めています。
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さらには、「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」と称して、国内(外)の研究機関や企業の研究開発者が研究発表・情報交換・議論・交流等を行う会合も主催しています。
当研究会は、一般消費者層へのエルゴチオネインの認知・理解・普及も重要であると考え、産学官民の誰もが気軽に参加し議論可能な会合です(執筆時2023年までの実績)。
そして、このコミュニティーを礎とし、エルゴチオネイン産業の成長を促し、現代で不可避の重大な社会課題となった「老後の不健康期間の縮小化(健康寿命の延伸化)」に総合知で取り組んでいます。
過去の研究会における発表内容ついては、「ユーグレナ先端研究」をウェブ上に公開していますので興味がある方はぜひご覧ください。
ここでは、そこから、以下の2つのトピックスをとりあげてご紹介します。
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エルゴチオネインとヒト認知機能の関わり
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エルゴチオネインを含むタモギタケの新品種開発
エルゴチオネインとヒト認知機能の関わり
抗酸化作用をもつエルゴチオネインには継続的な摂取により、中高年の方の記憶力や注意力を維持する機能があることが報告されています。
日本の研究グループの論文では、認知症患者と健常高齢者の血液成分の中で比較した結果、認知症患者の血液には、エルゴチオネインが少なかったそうです。
これは体内のエルゴチオネイン量を多く保つことが、認知症リスクの低減に繋がる可能性を示唆しています。
最近ではエルゴチオネインを含む、記憶力を維持する機能を表示した機能性表示食品も誕生しています。
実際に、エルゴチオネイン5mgを含むサプリメントを毎日12週間摂取した結果、被験者の認知機能項目のうち言語記憶力と単純注意力の上昇が見られました。
エルゴチオネインの摂取により、ヒトの認知機能の向上が科学的にも裏付けられているといえます。
エルゴチオネインを含むタモギタケの新品種開発
タモギタケは、これまで北海道・東北地方を中心に消費されてきました。
最近では、タモギタケ独特の風味や多様な機能性効果が好まれ、国内全域で消費されるようになっています。
生産量の拡大にともない、北海道立総合研究機構林産試験場では、品種改良を重ねて生産効率の向上や、よりエルゴチオネイン含量(mg/g)の多い品種の開発が進められています。
実際に、生産者と消費者の要望に応える北海道道産タモギタケ新品種「えぞの霞晴れ33号」の開発・命名をして、農林水産省から出願公表されています。
今では開発品種の国内シェアは 50%以上の 300トン程度で推移しており、今後も用途開発による生産量拡大を目指しています。
その他の研究内容については、「ユーグレナ先端研究」をご覧ください。
実際にエルゴチオネインと認知機能の関係が証明されているんですね!
ユーグレナ 鈴木
そうなんです。エルゴチオネインを多く含むタモギタケの人工栽培も進んでいるので、これから認知度が高まるかもしれません。
まとめ
エルゴチオネインに期待できる効果・効能や、エルゴチオネインが含まれる食べ物をご紹介しました。
エルゴチオネインは、強力な抗酸化作用のほか、脳の力を高める効果や美肌効果などが期待できます。
しかしながら、エルゴチオネインは体内で作れないため、食品やサプリメントからの摂取が必要です。
特にタモギタケはエルゴチオネインの含有量が圧倒的に多いため、積極的に食事に取り入れることがおすすめです。
スープなど、毎日の食事に取り入れやすいものから始めてみましょう。
エルゴチオネインの抗酸化作用や健康効果を知って、積極的に摂取したいと思いました。
ユーグレナ 鈴木
キノコ類などの食品やサプリメントから摂取できるので、ぜひ食生活に取り入れてみてください。
はい。定期的に取り入れて、健康な体を目指します!
監修:鈴木 健吾
(研究開発担当 執行役員)
東京大学農学部生物システム工学専修を卒業。 2005年8月、取締役研究開発部長としてユーグレナ創業に参画、同年12月に、世界初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。 2016年東京大学大学院博士(農学)学位取得、2019年に北里大学大学院博士(医学)学位取得。 現在、ユーグレナ社研究開発担当の執行役員として、微細藻類ユーグレナの生産およびヘルスケア部門における利活用に関する研究等に携わる。 マレーシア工科大学マレーシア日本国際工科院客員教授、東北大学・未来型医療創造卓越大学院プログラム特任教授を兼任。 東北大学病院ユーグレナ免疫機能研究拠点研究責任者。著書に『ミドリムシ博士の超・起業思考 ユーグレナ最強の研究者が語る世界の変え方』(日経BP)など。